タンパク質信者の僕が、新しい米国食事ガイドラインを読んで考えたこと
「これまでの栄養学の考え方の限界がどこにあるのか」を中心に問題提起された文章は読みごたえがあった。
従来の「常識」を一部否定しつつ「栄養素中心」の時代から「食品・食環境中心」の時代へと軸足が移ったとしている。
特に重要だと思ったのは以下の2点。
●超加工食品(ultra-processed food: UPF)への強い警戒
●タンパク質摂取の強力な推奨
実はこの2つは両立が難しい。
そこがこのガイドラインの最も面白く、同時に危うい部分でもあると思った。
まず、今回のガイドラインの大きな方向性
これまでの食事指導は、
●脂質を減らしましょう
●コレステロールを減らしましょう
●カロリー制限をしましょう
●炭水化物は○%
●脂質は○%
という「栄養素ベース」の発想が中心だった。
しかし今回重視されているのは「何g食べるか」より「何を食べるか」。
栄養価云々よりも、高加工の(highly processed)×工業的に設計された(industrially engineered)×過剰に嗜好性を高められた(hyperpalatable)食品を問題視している。
これは栄養学の方向性としては、かなり大きな変化ではないか。
健康障害の「主犯」、超加工食品(UPF)
これが今回の最も重要な変化だろう。
これまでも加工食品への一定の言及はあったが「摂り過ぎないほうがよいでしょう」という感じの曖昧なものだった。
というのも、これまではそもそも「加工」の定義が曖昧で(ソーセージは加工だけど、豆腐は加工じゃないの?)、因果推論が難しく(本当にソーセージ食べ過ぎると病気が増えるの?)、社会経済因子の影響も大きい(加工食品そのものが悪いのか、それとも加工食品を多く食べざるを得ない社会階層の問題なのか)、加えて栄養素調整後にどこまで独立効果があるかも不明だった。
しかし近年、UPFの有害性に対してかなり大量かつ強力な疫学データが蓄積してきた。
特に関連が強く示されているのは、肥満、Ⅱ型糖尿病、心臓血管疾患、全死亡率など。
これまでは「脂質が悪い」「糖質が悪い」などの議論が中心だったが、今回は「工業的に設計された食品環境が人間の摂食制御を壊している」という視点に変化している。
これはたまにSNSで盛り上がっているような「人工添加物が毒」というような単純な話ではない。
問題視されているのは、UPFがヒトの満腹システムを回避するように設計されていること。
例えば、過剰な嗜好性(hyperpalatability、例えばエナジードリンク中毒者は多い)、咀嚼不要・液体カロリー、精製炭水化物(果糖・ブドウ糖)、食物繊維欠乏、満腹シグナルの破綻(satiety signaling disruption)、短時間で大量に食べられる食形態などだ。
これは経験的にも理解しやすい。
同じ2000 kcalでも、生や未加工の食品中心+高食物繊維+咀嚼が必要+自然なたんぱく源の食事と、液体エネルギー+スナック類+精製炭水化物(白食パン・白ご飯など)+高加工食中心の食事では、空腹感も体重変化も全然違う。
つまり「代謝だけでなく食行動そのものを見ろ」というのが、今回のガイドラインのメインメッセージだ。
一方で強調される「高タンパク」
このところ日本でも注目を集めることの多かった「高タンパク」、今回かなり強く推奨されている。
特に背景にあるのは、
●高齢者のサルコペニア・フレイル
●GLP-1(肥満治療薬)投与に伴う減量中の筋量維持(lean mass preservation)
●食後の満足感を高め、食べ過ぎを防ぐこと(satiety改善)
●肥満マネジメント
日本ではいまだに関心が低いが、特に高齢者が「十分なタンパク摂取を確保する」ことの重要性は以前からかなり強調されている。
これは臨床的にも既知の事実だ。
低栄養・サルコペニア・フレイル、脆弱性疾患(肺炎・転倒骨折・心不全増悪など)の発症・入院・死亡のリスクとの関連を考えると、従来の0.8 g/kg/dayは「最低ライン」に近い。
そのため最近は1.2–1.6 g/kg/day程度を推す流れが強くなっている。
腎機能の低下した高齢者に対しても、タンパク制限よりも必要摂取量を確保することの有用性が明らかになってきている。
しかし、ここに一つの内部矛盾が発生する。
今回のガイドラインは、UPFを減らすとともにタンパク質を増やせと言っている。
しかし「人々が何をもって高タンパクと理解するか」によっては、UPFを制限するガイドラインの方向性に逆行するリスクがある。
なぜなら「簡単にタンパク質を増やす方法」として、もっともアクセスしやすいのは「高プロテイン食品」としてのUPFだからだ。
現代の高タンパク食の多くは超加工食品(UPF)
現在の「高タンパク市場」には、RTD(ready-to-drink)型のプロテイン飲料、プロテインバーなどの高タンパクスナック、加工肉系スナック(タンパク強化ソーセージなど)が大量に存在している。これらは一見すると「健康的な高タンパク食品」に見えるが、実際には高度に加工された食品=UPFであることが多い。
現在の食品市場では、「高タンパク」という健康イメージが強力なマーケティングワードになっており、その結果として「健康的に見えるUPF」が急増している。
UPFを避けることを優先すべきか、それともUPFであったとしてもタンパク質摂取を優先すべきなのか。
自身も「健康的な高タンパク食品」の愛用者の一人として考えてみたい。
たとえばフィットネス用途のプロテインパウダーにについてはどうだろうか。
栄養学的にはプロテインパウダーもその多くがNOVA分類上、UPF寄りに位置づけられる。
ホエイ分離精製、香料、人工甘味料、乳化剤、安定剤などの複雑な加工過程を含むことが多いからだ。つまり定義上はUPFに近い。
しかし「加工されていること」と「代謝的に有害であること」は同義ではない。
例えば、比較的シンプルなホエイプロテイン、特に無糖で添加物が少ないものは、高齢者の低栄養・サルコペニア・フレイル対策、GLP-1治療に伴う筋量維持、アスリートの補助栄養などには合理的に機能する場合もあるだろう。
つまり「不足を補うための補助食品」として使われるなら利益が不利益を上回る。
しかし現在の市場では必ずしもそうではない。
プロテイン市場に大量に流通する高タンパク化されたスナックやドリンク。
販売者は健康イメージを打ち出しているが、本質的にはUPFの再包装に近い。
特に危険なのはhealth halo(健康そうに見える効果)だ。
人は「タンパク質20g」「ローカーボ」「高タンパク」「低糖質」などの表示を見ると健康的と認識しやすくなる。
しかし実際には人工甘味料、高カロリー、高ナトリウム、嗜好性が高く設計されているものが多い。つまり健康食品に見えるジャンクフードなのだ。
前述の通り、高齢者やアスリートなど、タンパク質の絶対的・相対的不足に対してプロテインを補助的に利用することに合理性がある。
しかしそうではない一般市民の多くは、通常の食事に加えてさらに必要以上の「高タンパク食品」を追加することになる。
結果として、総エネルギー接種量増加、スナック頻度増加、UPFへの曝露増加が生じる。つまり健康な食生活を意識しているつもりで、実際には健康上の不利益を伴う「高タンパクUPF」への依存を強めることになる。
NEJMが指摘するのは、タンパク質そのものではなく「高タンパク」という健康メッセージが食品産業によってUPF市場拡大に利用される危険性。
重要なのは「どのような食品形態でタンパク質を摂取するのか」、そして「高タンパク化された超加工食品を健康食品として受け入れてしまっていないか」である。
「タンパク質を増やせ」という単純なメッセージではない
重要なのは「タンパク質を何から摂るのか」
著者のFrank Huらの立場はかなり一貫している。
彼らが基本的に重視しているのは、地中海食をベースにした植物性食品中心で加工度の低い食事パターン。具体的には、豆類、ナッツ類、魚、発酵乳製品、野菜、果物、全粒穀物などを中心とした食事であり、「高タンパク」そのものではなく、「どのような食品からタンパク質を摂取するか」を重視している。
つまり「タンパク質量だけを指標にするな」さらに「タンパク源が健康影響を左右する」ということだ。
ここは近年の栄養学の中でもかなり重要な変化だと思う。
従来の「栄養素単位」の発想から、「食品全体」や「食事パターン」へ重心が移っていることを示している。
実際のところ、現在の栄養学で比較的強いコンセンサスが得られている領域はそれほど多くない。しかしその中でも比較的エビデンスが安定しているのは、豆類、ナッツ類、魚、野菜、果物、全粒穀物、加工度の低い食品を中心とした食事パターンである。
逆に、甘味飲料、加工肉、高度に精製された炭水化物、超加工食品、過剰な塩分摂取などについては、肥満、糖尿病、心血管疾患、死亡率との関連を示すデータがかなり蓄積している。
一方、まだ決着していない領域も非常に多い。
ここは重要だ。
メディアではしばしば「栄養学の常識が変わった」と語られるが、実際にはそこまで単純ではない。
例えば、
●飽和脂肪酸をどこまで制限すべきか
●全脂肪乳製品は本当に問題なのか
●赤身肉をどこまで許容できるのか
●動物性タンパクと植物性タンパクの差をどう考えるべきか
●個人差をどこまで重視すべきか
●超加工食品をどう定義するのか
などの領域では、依然として議論が続いている。
個人的に最も本質的だと思うのは、「栄養素ベース医療の限界」がかなり明確に示されたこと。これまでの栄養学を否定したわけではない。しかし、従来の大原則を維持しつつも、その境界条件が揺れ始めている。
従来の栄養指導では、低脂質、低糖質、カロリー計算、三大栄養素比率のような「栄養素を操作する発想」が中心だった。しかし、それだけでは現代の肥満や代謝疾患を説明しきれなくなっている。
また、そこには「食品産業によって設計された食環境」が強く関わる。
人間の意志の力だけでは抗しにくい過剰な嗜好性を持つ食品が大量に供給され、しかもそれが「健康的」「高タンパク」「低糖質」といったイメージで包装されている。
ここに現代の食環境の難しさがある。
臨床的な優先順位は比較的明確だ。
【1】UPF(超加工食品)を減らすこと。
これはおそらく現在の栄養介入の中でも最も影響が大きい。
【2】液体糖や添加糖を減らすこと。
特に飲料は満腹感が弱く摂取カロリーが増えやすいため介入効果が大きい。
【3】タンパク質の質
豆類、魚、大豆食品、ナッツ類、ヨーグルトのように、加工度が低く栄養密度の高い食品からのタンパク質摂取を支持する。
【4】タンパク質の量
上記で十分なタンパク質が摂取できないようであれば、場合によってはプロテイン強化食品を許容する。③④を逆転させると高タンパクUPFに流れやすくなってしまう。
今回のガイドラインの本質は「タンパク質を増やせ」という単純なものではない。
本当に重要なのは、「工業化された食環境から距離を取りつつ、栄養密度の高い食品を選べ」という点にある。
最大の問題はこのガイドラインが食品産業によって「高タンパク加工食品を推進する流れ」へ変換されやすいこと。
現在でも「健康そうに見える比較的安価な超加工食品」が大量に市場へ流れ込んでいる。
一般市民が手軽に健康を指向すればするほど、不健康なUPFの摂取量が増える。
皮肉な話だ。
結局のところ、このガイドラインの核心は「三大栄養素を細かく操作すること」ではなく「加工度の低い、本来の食品へ戻ること」。
栄養を考える前に、まずは食事の質を考えろ。
そういうことだろう。
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