病院に「入院」する時代は終わる

世界的に推進される「在宅入院」。コロナ禍を経て一気に拡大、その安全性と有効性に関するエビデンスが蓄積されつつある。特にフレイル高齢者の入院関連機能障害を回避するとともに、社会保障費の抑制にもつながることから、強力に政策的推進がされる国も多い。一方の日本の在宅医療は慢性期にフォーカス、急性期は病院に入院させるのがいまだに一般的だ。台湾で開催された国際学会で学んだこと、感じたことをまとめてみた。
佐々木 淳 2026.06.28
誰でも

台湾で開催されたAsia Pacific Hospital At Home Congressに参加した。

0日目、1日目の内容はすでにSNSで前出しさせていただいているが、僕にとっての個人的ハイライトはBruce Leff氏による講演「Home-Based Care Ecosystem -Global Trends and Future Challenges」だ。

抽象論・精神論で語られがちな在宅医療・在宅入院をエビデンスに基づき、データドリブンで議論を進める。

とてもインパクトがあったので、その内容(概要)を共有したい。

Bruce Leff という人物

在宅医療・在宅入院関連の論文を読むと、頻繁に出てくる著者がいる。

Bruce Leff氏だ。

彼はJohns Hopkins University School of Medicine の老年医学・内科学の教授であり、誰もが認めるHospital at Home と在宅医療モデルの世界的な中心人物だ。その研究領域は高齢者、多疾患併存、フレイル、homebound、在宅プライマリケア、Hospital at Home、医療政策から質評価まで非常に幅広い。

しかし彼は単なる研究者・制度論者ではない。急性期、外来、在宅のすべてで高齢患者を診てきた(そしていまも診ている)臨床医でもある。彼のプレゼンの説得力はそこにある。

「病院に来られない、あるいは病院に行くことでむしろ害を受ける高齢者をどう支えるか」という老年医学上の課題意識が、彼の実践と研究のスタート地点だ。

会議前日に開催された主催者懇親会で。

会議前日に開催された主催者懇親会で。

出発点は「病院中心医療」の限界

彼の課題意識は明確だ。

超高齢社会では、病院中心の医療モデルだけでは患者ニーズに対応できない。特にフレイル高齢者や外出困難者は、医療ニーズは高いのに通院継続自体が難しい。にもかかわらず、従来の医療制度は患者の来院を前提に設計されてきた。

ここには致命的な構造的問題がある。

このミスマッチは、単に患者の不便という話ではない。

病院中心モデルは、患者にとっても、医療財政にとっても、医療提供体制にとっても限界を迎えている。彼はその解決策として、在宅プライマリケア、Hospital at Home、在宅緩和ケア、訪問看護、リハビリ、薬剤、検査、介護、データ、支払い制度を統合した「在宅ケア・エコシステム」を提唱する。

米国には「見えない重症高齢者」が大量に存在する

米国のhomebound(在宅)高齢者の規模は大きい。

OrnsteinらのJAMA Internal Medicine 2015年論文は、2011年時点の地域在住 Medicare 高齢者を対象に、外出頻度と外出時の困難さからhomebound populationを推計している。


重要な数字は以下の通り。

●完全在宅(全く外出しない)=39.5万人
●ほぼ在宅(殆ど外出しない)=157.9万人
●合計197万人(地域在住Medicare高齢者の5.6%)

米国には、施設に閉じ込められているわけではないのに、外出できない在宅高齢者が約200万人いる。これは「自宅にいられるから軽症」という意味ではない。病院からは見えない場所に、重症・脆弱な高齢者が存在しているということだ、と彼は指摘する。

さらに重要なのは、完全に外出できない人だけが問題ではない点。

一人では外出できない、介助が必要、外出に強い困難がある「semi-homebound層」も大きい。この層は、外来医療だけに依存すると簡単に取り残される。

Homeboundは単なる「状態」ではなく「予後不良のシグナル」

彼はhomeboundが単なる生活状況ではなく、死亡・施設入所・回復の間を行き来する「予後不良の動的な状態」と指摘する。JAGS 2021年の研究は、2012年に新たにhomeboundになったMedicare高齢者を2018年まで追跡している。

この研究で示された累積死亡率は重い。

1年目に18.0%が死亡、2年目に36.0%、3年目に41.4%、4年目には50.9%と約半数が死亡する。6年目は59.1%、7年目には65.0%。

つまり、高齢者はhomebound(外出困難)になると、その3分の2が6年後には死亡する、ということになる。

これは日本の要介護3レベルの高齢者のほぼ予後と重なる。

この事実の臨床的意義は明らかだ。

外来に来ない患者は「問題が少ない」のではない。

むしろ外来に来られない患者ほどリスクは大きく、早期に在宅医療、訪問看護、ACP、緩和ケア、急変時対応を組み込むべき対象である、ということだ。

狙うべきは「予防可能な悪化」が多い患者

FigueroaらのAnnals of Internal Medicine 2017年論文は、Medicareの「潜在的に予防可能な支出」がどの患者群に集中しているかを分析している。

最も重要な結果は、フレイル高齢者の比重である。

フレイル高齢者はMedicareに占める割合は8.6%に過ぎないが「予防可能な支出」に占める割合は過半数(51.2%)を超える。一方、軽症・中等症の複雑慢性疾患は人口比27.8%に対し予防可能な支出割合は8.3%、単純慢性疾患は人口比18.0%に対し予防可能な支出割合はわずか1.6%しかない。

これは在宅医療の対象設定を考えるうえで非常に重要だ。

がん治療や高度手術のように必要で避けにくい支出もある。一方で、フレイル高齢者では心不全増悪、肺炎、尿路感染、脱水、糖尿病合併症など、継続的・計画的な在宅医学管理や早期介入で防げる支出が多い。

彼は医療費全体を抑制するためには、介入すべきはがんや高度手術などの「高コスト患者」ではなく、「悪化を予防できるフレイル高齢者」であるとする。

日本の在宅医療は「独力で通院が困難」「継続的・計画的な医学管理が必要」の2つが保険適応の主要要件だが、まさにこのストライクゾーンをカバーしていることになる。

在宅プライマリケアは慢性期の土台

このような患者に対して最初に必要なのがHome-Based Primary Care(在宅プライマリケア)である。これは通院困難な高齢者に対して、自宅で継続的な主治医機能を提供するモデル、日本の訪問診療はまさにそれにあたる。JAGS 2014年のシステマティックレビューでは、在宅プライマリケアは救急受診、入院、病床利用、費用を減らし得ると整理されている。

しかし、医師が定期的に訪問すれば、プライマリケアとして有効に機能する、というわけでもない。重要なのは以下であるとされる。

●医師・看護師・薬剤師・リハビリ・ソーシャルワーカーの在宅多職種診療チーム
●24時間の相談・急変対応体制の確保
●単なる持病の治療ではなく悪化を予測するリスク管理
●家族・介護者への支援
●病院・救急・介護との連携
●薬剤調整とポリファーマシー対策
●ACP・緩和ケア(ホスピスケア)・看取りの統合

日本の在宅医療は、概ねカバーできているように思う。

特に24時間対応(必要時、休日夜間の医師の緊急往診を含む)の義務は、諸外国の在宅入院においては必須要件になっておらず、ここは機能としては誇れる(というか、諸外国から驚かれる)ところだ。

しかしLeffは、在宅プライマリケアを、単なる「優しい医療」ではなく「重症高齢者の急性増悪と入院を減らすための「システム」」であるべきと定義する。

厚労省にはぜひここの点に留意してほしい。日本の在宅医療のように、医療者の意欲と気合い、自己犠牲に支えられる仕組みはシステムとは言えない。それでも頑張れと言われると、いや、言われなくても患者や家族のために頑張ってしまうのが日本の医療者なのだが。

在宅プライマリケアに「Hospital at Home」を加える必要がある

在宅プライマリケアが進むと、次の問題が見えてくる。

慢性期管理だけでは急性増悪に対応しきれない。肺炎、心不全増悪、COPD増悪、尿路感染、蜂窩織炎、脱水など「入院が必要とされる状態」が在宅患者に起こるからだ。

しかし、そのたびに病院へ送ると、フレイル高齢者は入院による害を受けうる。

NEJM 2023年の Bates らの研究は米国11病院の入院を調査、約4分の1の入院で有害事象が発生、その23%は予防可能だが、3分の1は重い害を伴うと報告している。

日本で行われた研究でも、健常な高齢者であっても、10日間の入院で平均7年分の老化に相当する骨格筋の喪失が生じるという。

入院関連の害には、薬剤有害事象、転倒、褥瘡、せん妄、医療関連感染、ADL低下が含まれる。特にフレイル高齢者は、入院によって治療対象の疾患は改善しても、入院関連機能障害によって身体機能や認知機能が低下することが多い。

まずは「入院は安全、自宅は危険」という発想を完全に切り替える必要がある。

正確には「病院でなければできない医療」と、「自宅で安全に代替できる医療」を新たに区別する必要がある。

Hospital at Homeは急性期入院を自宅で代替するモデル

Hospital at Homeは「急性期入院そのものを自宅で代替するモデル」だ。

Leff自身によるAnnals of Internal Medicine 2005年論文では、肺炎、心不全増悪、COPD増悪、蜂窩織炎などで入院が必要な高齢者に対し、「自宅で病院レベルの治療を行う在宅医療モデル」を評価している。

基本プロセスは以下の通り

  • Assessment:適応判断(病棟や救急外来で、自宅で安全に治療できるか評価)

  • Transport:必要に応じて自宅へ逆搬送

  • Care:自宅で点滴、抗菌薬、酸素、検査、訪問看護、医師診察、モニタリング

  • Discharge:急性期治療が終われば、通常の在宅医療・外来・地域ケアへ

患者を入院させるのではなく入院機能を患者の家に持ち込む。

ただし、その対象は選ぶ必要がある。ICUレベル、不安定な敗血症、緊急手術、重度せん妄、家庭環境が危険なケースはもちろん適さない。

日本でも、在宅患者のいわゆる「急変」のざっくり80%、緊急入院の50%は自宅で対応ができる印象がある。

たとえば悠翔会の管理患者の入院理由を個別に分析してみると、患者側要因・社会的要因による入院が約半数を占める。これらは潜在的に入院回避が可能であったケースだ。

患者・家族が「少ない不安」と「少ない介護負担」で「自宅で安全に治療ができる環境」を整えることができれば、日本においても適応患者は多いはずだ。

一方で、日本では、在宅酸素の保険適応は原則として慢性疾患(その急性増悪は含むが)に制限され、急性肺炎には導入しにくい地域がある。またバイタルのモニタリングはやはり保険でカバーされない。できなくはないが、何かと面倒で、デバイスの利用には制限があり、時に査定されるかもしれない、という状況にある。

また、在宅医療の診療報酬は慢性期の管理を前提としており、在宅入院として評価される仕組みはない。臨時往診中心の対応は、診療チームにとってはややストレスが大きいが、それに見合った報酬にはなっていない。

Hospital at Homeは、すでに相当量のエビデンスがある

LeffはHospital at Homeを単なるアイデアとして語らない。

CaplanらのMedical Journal of Australia 2012年メタ解析では、Hospital in the Homeは死亡率を相対的に約19%低下させ、絶対差で約2.01%低下させたとする。死亡1件を防ぐためのNNTは50。この数字はかなり強い。

ただし、これはHospital at Homeがすべての入院に優れるという意味ではない。

「適切に選ばれた患者」に対して、「適切な体制で実施」した場合には、安全性、患者体験、再入院、コスト、死亡率において有利な可能性があるということになる。

COVID-19 が米国のHospital at Homeを一気に制度化した

COVID-19のパンデミックは、病院中心医療の脆弱性を露呈させた。

病床が逼迫し、感染リスクが高まり、病院だけでは急性期医療を抱えきれないことが明らかになった。これは第3波、第4波の日本でも同様だったはずだ。

そんな中、CMSは2020年にAcute Hospital Care at Home waiverを開始した。

これにより条件を満たす病院が、自宅で入院レベルの医療を提供し、Medicareから償還を受けられるようになった。2026年4月29日時点で、37州、137医療システム、365病院が承認されている。

2024年のCMS議会報告によると、在宅入院患者は従来の病院入院患者と比べて、死亡率が低い傾向、30日再入院が低い傾向が認められ、退院後30日支出が約20%低く、患者・介護者体験が良好と整理された。

この制度は2030年9月30日まで延長された。

つまりコロナ禍の一時的な応急策から、米国の急性期医療提供モデルの一部として組み込まれたということだ。

モデル化され診療報酬がついたことで、米国ではHospice at Homeが一気に普及した。

Leffは「Money Takes」と。然るべき報酬がなければ医療ケアとして定着しない。在宅医療への予算配分(予算拡大)の重要性を繰り返し訴えた。

Hospital at Homeは「ゴール」ではなく「スタートライン」

彼の言葉を借りると「HaH is just the beginning」、Hospital at Homeの重要性を強調しつつ、それだけでは不十分だとも指摘した。

Hospital at Homeは「在宅ケア・エコシステム」の入口であり、全体ではない。

Leff自身とRitchieによるHealth Affairs2022年論文は、「Home-Based Care Reimagined: A Full-Fledged Health Care Delivery Ecosystem Without Walls」と題されている。

患者の家と地域を中心に、急性期、慢性期、緩和、移行期、リハビリ、社会支援を統合する医療提供エコシステム。そこには、以下が含まれる。

  • 在宅プライマリケア

  • Hospital at Home

  • 在宅緩和ケア

  • 訪問看護

  • 訪問リハビリテーション

  • 在宅薬剤管理

  • 検査・画像・モニタリング

  • 介護・生活支援

  • 救急・病院連携

  • データ基盤

  • 支払い制度

  • 質の評価

「すまい」を中心にさまざまな機能を配置・連携させるのは、日本の地域包括ケアシステムにも似ているが、日本のポンチ絵には、制度・医療フレームワークとしてのHospice at Homeが存在せず、データ基盤の統合は進まず(これは本来の概念には含まれていたはずだが)、テクノロジーの活用は進まず、質の評価も行われていない。

在宅ケア・エコシステムは複数モデルの集合体

在宅ケアモデルを整理する上で、彼が紹介してくれたのはCHCS/California Health Care Foundation の「Medical Care at Home Comes of Age」。

この資料では、さまざまな在宅ケアモデルが医療職の関与の程度と、慢性期から急性期までの患者ニーズに応じて配置されている。

主なモデルは以下の通り。

●Home-Based Primary Care/通院困難者への継続的主治医機能
●Home-Based Integrated Medical and Social Care/医療と社会支援の統合
●Home-Based Palliative Care/症状緩和、ACP、看取り
●Skilled Home Health Care/訪問看護、リハビリなど
●HCBS / LTSS/介護・生活支援・長期サービス
●Transitional Care/退院直後の移行期支援
●Rehabilitation at Home/自宅でのリハビリ
●Community Paramedicine/救急隊・救急救命士による地域支援
●Hospital at Home/急性期入院の自宅代替

Hospital at Home はエコシステムの要石

彼はHospital at Homeをエコシステムにおける「keystone」と表現した。

キーストーンはアーチの一番上に置かれる要石。左右の石を支え、全体を安定させるきわめて重要な役割を持つ。

これはとても上手な比喩だと思った。

Hospital at Homeは不可欠なパーツであるとともに、それがキーストーンとして機能する ためには、それを支える周囲の「石」が不可欠だ。

在宅プライマリケア、訪問看護、在宅緩和ケア、薬剤、検査、介護、救急、病院、データ、報酬制度という全体像があって初めてHospital at Homeは要石として機能する。

ただし、たとえ他にいくら石があっても、要石がなければアーチは完成しない。

在宅で患者を支えていても、急性増悪時に結局すべて病院へ戻すしかないなら、在宅中心のシステムには限界が残る。Hospital at Homeは、慢性期在宅ケアと病院急性期医療をつなぐ「中核機能」なのだ。

日本の在宅医療との違い

日本は米国よりも在宅医療と介護保険の基盤が強い。

これは大きな強みだ。

在宅療養支援診療所・在宅療養支援病院には、24時間連絡体制+往診体制が求められる。訪問看護も24時間対応、連携病院には緊急時入院体制などの施設基準がある。

また介護保険制度では訪問看護・介護、訪問リハビリ、通所、短期入所、24時間対応の地域密着型複合サービスなどが整備されている。

日本は制度面では、慢性期在宅医療(在宅プライマリケア)、在宅緩和ケア・在宅看取り、訪問看護、介護との接続などにおいて米国より進んでいる。

一方、日本は急性期入院代替としてのHospital at Homeが非常に弱い。

日本でも一部の在宅医は、肺炎、尿路感染、心不全増悪、脱水を自宅で診ている。しかしそれは多くの場合、個別の医師や診療チームの意欲や努力に依存している。

世界のHospice at Homeと比べ、日本の急性期在宅医療に不足しているのは次の8項目。

●急性期在宅医療の標準化(適応基準・治療プロトコル)
●病院と在宅チームの共同責任
●包括的な報酬設計
●自宅での検査・薬剤・酸素・輸液・機器供給のロジスティクス
●24時間のバイタルモニタリング
●質指標とアウトカム評価
●全国的なデータ収集
●家族介護者負担の評価

もちろん、患者の重症度や家族の介護力によっては、モニタリングは必要ないというケースもあるかもしれない。物流というほどの資材が必要ないケースもあるかもしれない。
しかし、必要な時にそれができない、というのでは困るのだ。

日本では常時100万人の患者が在宅医療を利用している。
これはとてつもなく巨大な土台だ。

ここに急性期在宅医療(入院代替)というキーストーンを組み込むことができれば、その完成度(超高齢社会への適合性)は一気に上がるのではないか。

医療者側のハードルは決して高くはないと思う。日本の在宅医の多くは急性期病院で診療経験を積んでいる。彼らは「在宅療養支援者」ではなく「在宅治療者」としても、求められる役割を果たすことができるだろう。

台湾は、日本にとって重要な比較対象

台湾は2024年7月にNational Health Insurance AdministrationがAcute Care at Home (ACAH・在宅入院)のパイロットを開始した。

ChenらはJournal of the Formosan Medical Association 2026年論文で、最初の9か月で2,158人がこのプログラムに参加したと報告している。対象疾患は肺炎、尿路感染、皮膚・軟部組織感染の3感染症。

台湾の在宅入院は、よく考えられているし、目論見通りによく機能している。

●支出予防効果の高いフレイルのhomebound患者を対象にしている
●入院・救急外来を経由せず、自宅や施設からでも直接「在宅入院」できる
●既存の在宅医療・在宅緩和ケアのリソース(在宅医・訪問看護師)を活用できる
●診療所、訪問看護、病院を組み合わせてチーム化する
●急性期病院の機能代替でありながらCommunity Basedで設計されている
●疾患ごとに診断・治療プロトコルが標準化されている
●請求システムと診療記録がダイレクトリンクし、診断基準や治療計画の実施状況、治療成果がリアルタイムでモニタリングできる
●「入院が必要なレベル」でありつつ在宅入院の再入院率・死亡率が低い(選択基準が適切)
●患者・家族満足度が高い

Leffのプレゼンを聴いてから改めて台湾モデルをみてみると、その精度としてのスマートさが際立つ。

台湾の頼総統も登壇。自ら内科医・ハーバードで公衆衛生を学んだ専門家として、在宅医療を拡充していく方針を明確に示された。

台湾の頼総統も登壇。自ら内科医・ハーバードで公衆衛生を学んだ専門家として、在宅医療を拡充していく方針を明確に示された。

台湾・衛生福利部部長(厚労大臣)石先生。彼もやはり医師かつ公衆衛生・医療政策の専門家。台湾は韓国とともに日本よりも10%高い高齢化率で着地する。両国とも出生率も日本よりも低い。日本は厳しいけど、それでも実はアジアの中では比較的「まし」なポジションにある。この新しい「常態」に対して、いかに社会を適合させていくか、高齢化の影響を抑えるという発想ではなく、よりよい高齢化を目指す、という視点がそこには感じられた。

台湾・衛生福利部部長(厚労大臣)石先生。彼もやはり医師かつ公衆衛生・医療政策の専門家。台湾は韓国とともに日本よりも10%高い高齢化率で着地する。両国とも出生率も日本よりも低い。日本は厳しいけど、それでも実はアジアの中では比較的「まし」なポジションにある。この新しい「常態」に対して、いかに社会を適合させていくか、高齢化の影響を抑えるという発想ではなく、よりよい高齢化を目指す、という視点がそこには感じられた。

台湾は在宅入院で先行する米国型・フランス型・豪州型を単純に「輸入」したわけではない。
国民皆保険と既存の在宅医療基盤を使い、地域診療所や訪問看護を組み込んだ台湾独自のモデルを作ろうとしている。

これは日本にとっても非常に示唆的だ。

日本には既存の(しかも強固な)在宅医療提供基盤がある。多職種の連携も機能している。多くの地域では看護も薬剤も24時間対応できる。介護施設においても24時間の医療ケアが提供可能なところが増えている。

加えてここに必要なのは、在宅急性期治療の標準化とそれに連動する包括報酬の仕組み。そして、医療者や患者・家族のマインドセットの切り替えだろう。

しかし、日本の在宅医療は、感染症や心不全などの在宅治療経験を数えきれないくらいの蓄積している。報酬設計の根拠となるエビデンス構築、その安全性や費用対効果の検証もやろうと思えばできるはずだ。

そしてACPも徐々に浸透している。「何かあってもできるだけ入院したくない」「自宅でできる範囲の医療で対応してほしい」と事前指示・意思表示する患者も増えてきている。「救急搬送・緊急入院」と「在宅看取り」の間に、「在宅急性期治療」という選択肢がないことのほうが不自然だし、Leffがこれを「キーストーン」と表現した意味が改めてよくわかる。

病院を否定するわけでは決してない

Leffの議論は「病院不要論」ではない。
病院でしかできない医療はある。ICU、緊急手術、高度専門治療、複雑な急性期管理は、もちろん病院が担うべきだ。

一方で、すべてを病院に集める必要はない。

LeuchterらのJAMA Network Open 2025年論文では、米国の病床稼働率はCOVID前の63.9%から COVID 後には約75%へ上昇し、2032年には成人病床で85%に達する可能性があるとする。またJankeとVenkateshの論説は、病院外モデルの拡充のみならず、集中治療や複雑急性期医療を担う病床の増強も必要だと論じている。

論点は「病院か・在宅か」ではない。

病院でなければできない医療は病院に集中させ、自宅で安全にできる急性期・慢性期・回復期・緩和ケアは地域へ移す。

この役割分担こそが必要なのだ。

日本の病床数は諸外国に比べると明らかに過剰だ。

人口比で英米の4倍、独仏新台の約2倍の病床数がある。この膨大なベッドを日本の人口は養い切れなくなっている。一部の大都市を除くと人口減少は加速し、医療の高度化・低侵襲化は入院依存をさらに下げる。そして、この病床稼働率の低下が、病院の経営赤字の1つの要因になっている。これは構造的な問題なのだ。

ベッドが足りない諸外国と、過剰なベッドの稼働率低下が問題になっている日本。
社会背景は大きく異なる。

しかし、患者のニーズは、病床数や病床稼働率によって変化しないはずだ。

Leffは「病院中心の医療から、患者中心の医療へ」と講演の中で何度も繰り返した。

日本では地域の人口当たりの病床数と、その地域における入院医療費に相関があることが明らかになっているが、これは「患者中心の医療」ではなく、「病院経営中心の医療」が行われていることの証左でもある。

容易に入院できるから、在宅入院なんて必要ない、という声も聞こえてきそうだが、在宅入院は、病床不足を補うためのものではない。病院入院に伴う「害」を最小化する、という重要な要素がある。

目の前の患者にとって最善の選択は何なのか。

真の意味での「患者中心の医療」を実現するためにも、医療資源の人口規模・医療ニーズに応じた均霑化を着実に進める。そのためにも地域医療構想・地域医療計画を絵にかいた餅にしてはならない。

また構想や計画にあたっては、既存のステークホルダーの既得権益の微調整に終始せず、10年後、20年後、30年後の日本の地域の姿を見据え、テクノロジーの進化も織り込んだうえで、それぞれの地域の身の丈に合った、いや、患者のニーズに最適化した医療が提供できる体制を確保する、という視点が求められるはずだ。

Leffの言いたかったこと

結局、今回も9000字を超えてしまったが、Leff のキーメッセージを簡潔にまとめるなら、こんな感じだろう。

超高齢社会、医療を病院という建物(彼の言葉を借りると「レンガとモルタル」)に閉じ込めるモデルは限界に来ている。特にフレイルで通院困難な高齢者を支えるには、在宅プライマリケアと多職種連携をベースに、在宅入院をキーストーンとした患者の生活を中心に統合された「在宅ケア・エコシステム」が必要だ。そして「Money Takes」、そのための予算も。

日本がこれから目指すべき方向は明確だ。

日本は在宅医療と介護保険の基盤をすでに持っている。しかし、その膨大なリソースを「慢性期の訪問診療」に閉じ込めている。ここに入院を代替しうる急性期在宅医療、Hospital at Homeと、それを支える標準化・データ基盤・報酬システムを構築する。

日本の在宅医療は長い歴史と膨大な膨大がある。
しかし、在宅急性期ケアを制度として設計するにあたっては、台湾や米国から学ぶべきことも多いと思う。

Leffのキーメッセージは単なる「病院から在宅へ」、「在宅医療を増やそう」ではない。
医療を「病院中心」から「患者中心」へ、患者の生活の場へと移すために、制度・技術・人材・文化・報酬をまとめて作り替えよう、という提案だ。

機は熟しつつある。
あとは最初の一歩をどう踏み出すかだ。

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